私がフランスへの留学を考え始めたのは、渡航の2年前でした
名古屋市出身。名古屋市立菊里高校音楽科を経て、東京藝術大学音楽学部ピアノ科卒業。在学中、数々の国内外のマスタークラスを受講。2020年、東京藝術大学を卒業後、フランスへ留学。パリ地方音楽院コンセルティスト課程を満場一致でディプロマを取得し修了。その後、リヨン国立高等音楽・舞踏学校の修士課程に首席で入学し、2年間研鑽を積む。2025年に卒業し、同年秋に完全帰国。
【フランス留学のきっかけ】
私がフランスへの留学を考え始めたのは、渡航の2年前でした。それまでは漠然とドイツ語圏への留学を希望しており、大学でも最初の2年間は語学の授業はドイツ語しか受講していませんでした。学部2年の秋に教授から「もし今度講習会へ行くなら、行ったことのないフランスへ行ってみたら?」と勧めを受け、学部3年に上がる前の春休みにパリの講習会に参加しました。参加するとは決めたものの、当初は正直フランスには全く興味がなかったので、果たして良い学びと滞在になるだろうかと半信半疑でした。しかしパリのシャルルドゴール空港に降り立ったとき、既に何か自分に合う空気を感じ、講習会では自分自身でも成長が感じられた素晴らしい学びができ、この滞在をきっかけに「大学卒業後はフランスに留学する」と決意しました。その後のフランス留学5年間には想像もしていなかったすばらしい出会い、たくさんの学び、貴重な経験、そして楽しい思い出を沢山あり、あの時フランス留学のきっかけをくださった恩師には感謝の気持ちでいっぱいです。
【コロナ渦での留学】
2020年初めはコロナの影響により世界各地でロックダウン、ビザ発給も中断しており、再開したのはその年の7月で、そこから慌ててビザ申請や住居探しを始めました。自力ですべての手続きをしていては間に合わないと思い、日仏文化協会にサポートしていただき住まいもあっという間に決まり、9月からの現地での生活をスムーズに始めることができました。その頃フランスでは、外出する際は何のために外に出るかを記した用紙が必須で外出規制はあったものの、対面でレッスンを受けることができました。
【貴重な学びと恩師】
最初の3年はパリ地方音楽院のコンセルティスト課程に在籍し、そこでお世話になったCélimène Daudet先生の元では今までにやっていない作曲家の作品にも取り組み、特に、より構成感を持った演奏と一人のアーティストとしての演奏という観点から多くを学び、基礎強化ができました。先生はピアニストとしてもたくさんの舞台で活躍していらっしゃり、プロジェクトはいつも興味深く、その影響で私自身もコンサートのコンセプトや曲目構成などについて常に考えるようになりました。これに関しては、留学2年目から通っていたパリ13区の伴奏科での経験もとても大きかったです。ラヴェルの《子供と魔法》にブラームスの《愛の歌》、バレエや現代ダンスとの共演など、様々なプロジェクトがあり、師匠のClaude Collet先生が4人の音楽家と共にコンセルバトワールで披露してくださったショーは見ものでした。
留学後半はリヨンに移り、修士課程で2年間学びました。修士課程では論文提出が必須で、学生一人につき一人の論文担当教授がつき、入学したらすぐに執筆に向けて準備が始まりました。私の論文テーマは「セザール・フランクピアノ作品の演奏におけるオルガンの影響」だったので、論文担当のオルガンの先生にオルガンについて教わり、教会で実際にカヴァイエ=コル(フランクの時代に活躍したオルガン製作者)のオルガンにも触れ、音色や響きなどを実体験する機会を何度もいただきました。楽譜や文献、実体験したことを自分の演奏だけでなく言葉で表現することは容易いことではありませんでしたが、担当教授の手厚いご指導の元で執筆したことは非常に良い経験でした。ピアノ実技のほうは、教授のLaurent Cabasso先生とアシスタント教授のHélène Bouchez先生の元で毎週みっちり見ていただきました。修士課程では学内の試験は卒業試験のみなので、自分のやりたいレパートリーに集中して取り組むことができました。カバッソ先生とはレパートリーや好みのアーティストなども合い、何より私自身、先生の音がとても好きだったのでレッスンで弾いてくださるときはいつも聴き入り、何度も鳥肌が立ちました。間近で聴いた本当に歌われた、精神の行き届いた音は日本に帰国した今も色あせることなく、私の憧れです。
帰国した今、この5年間の学びと経験がかけがえのないものだったと身に染みて感じています。留学先でも困らないようにと熱心に指導して下さった恩師をはじめ、現地でお世話になった先生方、仲間、留学準備をサポートして下さった日仏文化協会のスタッフの皆様、応援してくれた家族など、多くの方の支えがあってこそ留学を実現することができ、心より感謝しています。
フランスで行ったプライベートコンサート終演後に、ご高齢のムッシューが私に「多くのアジア人が西洋の文化に興味を持ってくれていることは嬉しい」と感慨深げに言ったことがとても印象に残っていて、国や世代を越えて100年、200年も前に生まれた作品を今演奏していることはすばらしいことだと改めて実感しました。
本場で学んだことを大切に、これからも真摯に音楽を追究していきたいと思います。