留学体験談

年齢・環境関係なく音楽と向き合えるフランス

奥山 康太 様 Kota OKUYAMA

国立音楽大学附属高等学校を経て、同大学ファゴット専攻卒業。現在、マルセイユ地方音楽院フォルマシオン・ミュジカル(ソルフェージュ)科のローザン・リストフ(Rosen Hristov)先生のクラスに在籍。

消えることない夢を叶えに…

 中学生の頃からラヴェルやピエルネ、プーランク等の音楽に親しんでおり、フランスに留学するのが夢でした。大学ではファゴットを専攻しましたが、そこで受講したソルフェージュの板倉康明先生とエクリチュールの山口博史先生の授業が非常に興味深いもので、後々本場のフランスで学びたいと願うようになりました。

 大学卒業直後の留学は、家族に理解を得ることが難しかったため、一度社会に出て自分で留学資金を貯めました。時間がかかりましたが、留学への思いは消えることなく、自分で夢をかなえました。

そして始まった留学生活

 留学都市として選んだマルセイユは紀元前から栄えている世界有数の港湾都市ですが、そのイメージを覆すくらい物価が安く、最近はインフラ整備が進んでいて治安も良くなっています。また、日仏文化協会のフルサポートプログラムに申し込み、渡仏前、そして現地でもサポートしていただいているおかげで意外と短期間でフランスでの生活に慣れました。

 僕が勉強している「フォルマシオン・ミュジカル」は1970年代以降に発展した新しい音楽教育のことで、実作品を用いて従来の歌唱や聴音のみならず読譜、リズム、音楽史、エクリチュール等総合的に学ぶことができます。初心者から上級者まで幅広い教育の研究がしたいので第三課程のローザン・リストフ先生のクラスに在籍し、スペシャリゼ課程のオリヴィエ・ムテ(Olivier Metay)先生の授業も聴講しています。第三課程のクラスではいきなり難しいことは押し付けずに土台固めのような授業で、スペシャリゼ課程になると難易度が飛躍的に上がり、伴奏科と同じように初見や移調もやります。両クラスに共通しているのは色々な専攻の学生が在籍しており、各々の楽器で演奏して実践的に勉強する機会に恵まれていることです。日本では主にピアノ科の学生が長く続ける座学のイメージがありますが、フランスでは音楽教育がフォルマシオン・ミュジカルに移行してから地方の音楽院でもパリ音楽院に引けを取らないくらい質が高い教育を受けられるようになりました。何より、たくさんの音楽作品に触れることで視野が広がり、改めて「音楽は楽しい」と実感できるのもこの新しい教育の精神ではないでしょうか。

 僕は一年限りの滞在なのでディプロムを取得することなく帰国する予定ですが、得られたものは大きかったと感じています。フランスは音楽院によってシステムが異なるため学び方のスタイルが多彩であり、学費が安いのも魅力的です。何より一度社会に出た人間も恵まれた環境で音楽と向き合う1年間を得られたのは、フランスの音楽院だったからなのではないかと思います。

帰国後は…

 帰国後は演奏活動の傍ら、ソルフェージュの指導と研究、そして作曲に挑戦することも考えています。フランスにおける伝統的な音楽教育の理念であり、ナディア・ブーランジェやメシアンのように幅広い分野で活躍できる「Musicien Complet(完全なる音楽家)」を目指して、音楽の道を進みたいです。