21期奨学生

小谷 純人様 カーン留学6

今季は不思議とテストの結果がよく、とある中国人のクラスメイトから「超級学覇」という称号をもらいました。「・・・学覇って何だ?」と思ってインターネットで調べてみたら、「いつも好成績で勉強だけに集中し、社会生活にあまり参加しない学生のこと」という説明がありました。必死に隠している上に、言語の壁があるにもかかわらず、私の社会性の欠如は、やすやすと他国の人間に見破られてしまうようです。しかも「超級」・・・グゥの音も出ません。

クラスメイトを紹介して下さい。具体的な人数、国籍、年齢、クラスの雰囲気等

クラスの構成は、中国7人、インドネシア4人、ベネズエラ2人、コロンビア1人、ガーナ1人、サウジアラビア1人、韓国1人、ロシア1人、ペルー1人、スイス1人、モロッコ1人、日本人1(私)、合計22人です。ただし、授業が専門化し、難しくなってきたせいか、授業に来ない学生も少なくありません。毎回授業は10から15人程度で行われます。年齢は40代が1人、30代が1人、10代が4人、残りが20代といった感じです。大学生が半分ぐらいで、その他これからフランスの教育機関に入ろうと思っている人、既に子供がいてフランスで仕事を探そうと思っている人など、フランス語を勉強する動機は様々です。クラスは前期と比べると、比較的静かな感じがします。クラスメイトとは、一緒にお昼や晩御飯を食べたり、夜に出かけたりします。

クラスの担任を具体的に紹介してください。

基本的にクラスの担任はいません。授業はいつも同じクラスメイトと受けますが、教科ごとに担任が代わります。しかし、クラスではなくレベル(niveau)ごとの担当教員がいるので、相談事があればその人に相談できます。また、基本的に先生は親切なので、頼めば大抵の質問や要望などには答えてくれます。ただし、週で3回ともっとも回数の多いMaîtrise des discoursという授業の先生は、実質的には担任のような役割をしています。したがって、実質今季のクラスの担任は、以前にもこのレポートに書いた、美しくて厳しいIsabelle先生です。その他、一見威圧的ですが実際はすごく生徒想いの優しい先生、逆に一見優しそうなのに若干意地悪な先生、テストの採点が厳しいが授業中反論すると親身に応えてくれる先生など、授業に応じて様々な先生と関わりがあります。様々なフランス人がおり、様々なフランス語の話し方があるので、多くの先生の授業を受けられるのは、この大学で勉強する大きなメリットの一つです。

授業の進め方はどうですか?

B2以上のクラスには、文化・文学コースと、大学入学準備コースの二種類があります。私が選んだ大学入学準備コースは、フランスの高等教育機関で必要となる語学力を身につけることを目的としていて、テキスト分析や議論構成の方法論などを中心に授業が編成されています。授業がアカデミックな内容になってきているので、人によってはかなり難しいようです。もちろん、発表の練習や文法の授業もあるのですが、前期に比べるとやはり講義形式の授業が増えました。授業中、学生は好きなタイミングで質問をしたり、意見を述べたりすることができます。また、前期はグループワークがかなり多かったのですが、今季は全くありません。

宿題は出ますか?

2ページ程度のテキストの読解、200単語程度の作文、5−10分程度のニュースの聴解、10問程度の文法問題、といったものが、週で平均5程度出ます。大変なのは、analyse des discours universitaireという授業の宿題です。先生はとても優しい笑顔で、「この文章の導入(もしくは結論)を、数行で書いてきて下さい。それくらいなら簡単ですよね?」と宿題を出します。「数行くらいなら・・・」と安易にOKしてしまうのですが、この授業で扱っているのはかなり専門的なテキストで、長いものは10ページ以上あります。結局、導入や結論を書くためには、全ての内容を把握する必要があるため、実際にはかなり時間のかかる宿題となります。先生の笑顔に騙されていると、睡眠時間が足りなくなってしまいます。

具体的な授業内容を2つ選んで教えて下さい。

Épistémologie:これは「認識論」「科学哲学」と訳される単語で、哲学の一分野ともされますが、広くは我々の認識方法についての学問を指します。実際には、哲学のように小難しいことをやっているのではなく、どちらかというと言語論です。例えば、テキストを分析しながら、どうしてこの名詞には冠詞がついているのか(いないのか)、この前置詞の役割は何か、この単語はラテン語から来ていて云々・・・といったものです。先生が気難しく、人気の低い授業ですが、この先生の正しい言語使用に対するこだわりと、言語に関する研究知識は、他の先生と比べると特出しています。いずれフランスの大学や教育機関で学びたいと考えている人には、非常にためになる授業です。

Analyse des discours universitaires: この授業では、研究レポートや論文を読んだり、研究発表を聞いたりして、その議論の構成を分析します。扱っているテーマは一貫してdéveloppement durable、「持続可能な発展」ですが、内容よりも、その文章や発表の構成の仕方について学ぶことが主眼になります。高校で哲学の授業が必修であるためか、フランスでは議論の仕方・方法というのが非常に重要視されています。議論は全体で導入・発展・結論の3つのパートからなり、導入には主題の紹介・問題提起・プランの言明の3つがが含まれていなければならず、発展は3つの部分で構成されていて・・・などなど。クラスメイトのスイス人が、「私が思うに、議論構成に関して、フランス人のあの3・3・3!へこだわりは、フランス人が大好きな国旗が3色というところから来ている」などと少し馬鹿にしていました。確かに、少し笑ってしまうほどのこだわりぶりですが、それでも明快で整った議論を構成する技術は、大学内でも、それ以外でも、役立つものです。学んで損はありません。

学校のイベントやエクスカーションに参加されましたか?

初めの頃、モンサンミッシェルへの遠足に参加してからは、特に参加していません。エクスカーションのメリットは、安く行けることや散策にガイドがつくことです。例えば、モンサンミッシェルへの遠足は、大学待ち合わせでバス移動だったのですが、たった4ユーロで行って帰ってこられました。学校主催のイベントは、様々な国籍の学生が集まって様々な言語で会話をするcafé international、大学主催のコンサート、映画を見てそのあと議論を行うcafé de cinémaなどがあります。もっとも、この最後の映画イベントは人気薄で、主催者のIsabelle先生が「前回は一人しか学生がこなかったんです・・・」と悲しい顔をしていました。美しい先生が悲しむ顔は見たくありませんが、一人しか来ていないと聞くと、ますます行く気がなくなっていまい、結局一度も参加できていません。

持ってきたけれど不要だった物はありますか?

不思議と、持ってきたけれど不要だったものはありません。そもそも、ほとんど服、本、和食、文房具だけをカバンに詰めてフランスに来たので、余分なものはほとんどありません。もちろん、フランスでも手に入るものもありますが、ほとんどの製品において日本製の方が優れているので、持って来ればそちらを使います。もし何か足りないものがあっても、大抵はこちらで揃うので、留学の際には、最低限の携行品で来ることをお勧めします。

思えば遠くに来たもの・・・か?:お祭り騒ぎは木曜日に!

フランスの学生は不思議と、皆木曜日の夜に飲みに出かけます。当然金曜日にも授業はあるのに、なぜなのかとずっと不思議に思っていたのですが、近頃ようやくそれらしい説明に出会いました。曰く、「フランスの大学では、周辺の地域出身で大学の学生寮に住んでいる学生が少なくなく、そうした学生たちは金曜日の夜には実家へと帰ってしまうため、木曜日にお出かけする」とのことなのです。なるほど、この木曜日の夜に出かけて夜中の2時や3時まで大騒ぎする習慣は、金曜日の夜には出かけられない学生たちへの優しさから来ていたのですね。「それなら木曜日に出かけないとな!」と、一瞬納得しかけましたが、だからといって、金曜日の授業がなくなるわけではありません。木曜日に騒いで金曜日の授業をおろそかにするのではなく、実家に帰る学生は諦めるとか、実家に帰るのを土曜日の朝にするとか、すればよいのではないでしょうか。というのも、私が間違えていなければ、確か学生の本業は勉学だったはずですですから。思えば遠くに来た・・・いや、今回に限っては、日本も同じようなものでしょうか。

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