21期奨学生

小谷 純人様 カーン留学4

新しく人と知り合う度に、よくこんなことを言われます。「日本のテクノロジーは、常に10年先を進んでいるって言うでしょ。日本人はどんな生活してるの?全てが機械で管理されてるの?」聞かれる度に、私は「別に、ここの生活とそんなに変わらないよ。」と答えます。しかし、彼らはめげずに続けます。「でも、もうロボットぐらいはいるんでしょ?」残念なことに、ロボットもまだ日常生活には入ってきていません。「嘘でしょ!?何やってるんだよ日本!!」きっと彼らの頭の中の日本では、車が空を飛んでいるのでしょう。その行き過ぎた期待はともかく、日本のテクノロジーは世界中で、こんなにも高く評価されているのですね。

ご到着から5ヶ月経ちましたが、学校や町、滞在先の印象を、改めて教えて下さい。印象は変わりましたか?

到着した頃の街の印象は、「何もないところだなぁ」といったものでした。しかし、約半年間住んでみてわかったことは、カンはそれなりにいろいろ揃っているということです。中心街には様々なマガザンがあり、そこそこ大きな本屋さんや電気屋さんがあれば、お洒落なカフェやかわいいレストラン、落ち着いて飲める飲み屋さんや躍り狂えるディスコもあります。
ほぼ毎日滞在している学校、寮(私の寮は、キャンパス内にあります)に関しては、初めはあんなに新鮮で活き活きとして見えていたのに、今ではすっかり馴染みのものになりました。人間、どんなに変わった環境にいても、慣れてしまえるものなのですね。「何でこんなに曇りばっかなんだよ!風強いよ!寒いよ!」などと毎日不満を言いながらも、いつの間にか、この街を好きになってしまったのかもしれません。

バカンスはどのように過ごしましたか?

年末年始にかけて、丸々一ヶ月のバカンスがありました。バカンス中は、溜まった仕事をこなしてから、南へ旅立ちました。なんだかんだ言っても、太陽が恋しいのです。パリを通り、リヨンを訪れ、ボジョレーでワイン蔵巡りをし、バルセロナでサクラダファミリアに圧倒され、再びパリに戻ってきて、そこで年を越しました。別の国に簡単に行けてしまうのは、ヨーロッパに留学する大きなメリットの一つです。サクラダファミリアは本当に素晴らしく、前に立った時は、それはもう押しつぶされるかのような迫力でした。しかし、一番楽しめたのは、ボジョレーツアー。ワインだけではなく、その美しい風景もまた、ボジョレーの大きな魅力の一つです。小高い丘から眺める、一面に広がるワイン畑と、美しい村々、そしてその先に堂々とそびえ立つモンブラン。そこにワインが加われば、気分は天国です。カンに帰ってきてからは、周辺の町を訪れました。映画『男と女』の舞台となったドーヴィルの海岸もまた、息を飲む美しさでした。

学期末テストはどのように行われましたか?

期末テスト2日目のこと。ふと気付いたら、テスト開始時間直前!その日は雨が降っていましたが、私は舗装されていないが若干近い芝生の道を、全速力で走りました。その結果。私は泥だらけの服でテストを受け、泥まみれの点数を得ることになりました。急げども回らない愚かさ、時間直前まで復習をしている計画性のなさは、異国の地に来ようとも治らないのです。残念。
そんな苦い思い出いっぱいの期末テストは、4日間に渡って7項目で行われました。直前の一週間は復習期間となっており、基本的には授業が行われません。(ただし、若干の補講があります)テストは、それぞれの学生に番号が与えられ、採点者には回答用紙が誰のものかわからない、匿名方式のテストとなっています。時間は科目ごとに、一時間もしくは一時間半です。文学や歴史のテストのように、授業で学んだことと関係の深い文献や資料が提示されて、それを解読するようなものや、Communicationのように、読み、書き、聞き、話し、全ての項目で地のフランス語力が問われるようなものがあります。ちなみに、A1〜B1までのクラスでは、成績の平均が14点(20点満点)を超えると、次の学期は飛び級で二つ上のクラスに上がれるようです。

フランス人学生と交流を持つ事はありますか?

残念ながら、普通に学校で勉強している限りでは、フランス人の学生との交流はほとんどありません。私の場合、飲みに行ったバーにいるフランス人の学生と関わるのが、ほとんど唯一の機会です。ただし、大学のサークル活動に従事したり、あるいは外国人へのフランス語教育を勉強している学生が開催しているアトリエに参加したりすれば、交流機会は増えると思います。また、B2以上のクラスでは、選択で実際に学部の講義を受講することができるので、そこでまた交流の機会があります。私は哲学の授業を選んだのですが、やはり哲学科の雰囲気というのは、フランスでも独特なものがあります。学生たちは、見た目からして、なんとも変な格好をしている人が多い。もっとも、そこに居心地の良さを感じてしまう私もまた、同じ穴の狢なのでしょう。

DELF/DALFについて

DELF/DALFとは、フランスの国民教育省が認定している、唯一の公式フランス語資格です。留学の成果は、何も語学資格のように目に見えるものだけではありませんが、せっかく現地で勉強したからには、何か形に残しておきたいのも事実です。もちろん、日本でもDELF/DALFの試験は受けられるのですが、私の実感としては、留学したからにはこちらで受験することに、大きなメリットがあります。ペーパー試験はどこでやってもそれほど変わらないと思うのですが、留学先で受験すると、面接(Production orale)を知っている先生と、使い慣れた教室でできるのです。もっとも、私のようなミジンコの心臓を持つ人間は、それでも面接の日は吐き気を催すほど緊張したのですが・・・。いずれにせよ、フランス語に囲まれ、最も頭がフランス語に慣れている時に、知っている先生といつも使っている教室で試験が受けられる。これは、合格するには最良の環境と言えるのではないでしょうか。カン大学では、12月、3月(不定)、5月、6月にDELF/DALFの試験が行われるそうです。

思えば遠くに来たものだ:フランス人は沈黙を嫌う?

とある飲み屋で知り合った、アニメ好きのフランス人学生に聞いた話。「日本のアニメって、たくさんこちらで吹き替えられてるんだけど、すごく変なんだよ。登場人物が、映像では全く口が開いていないのに、アー!とか、ウー!とかよく言ってるんだよね。」理由を聞いてみると、テレビ局が音のない時間が続くと子供が退屈して見てくれないのではないかと憂慮したために、このようなことをしているのだそうです。そこで私は、納得がいきました。エウレカ!これは前から思っていたのですが、フランス人にはどうも吃る人が多い。例えば、Je pense que… pense que… que…というように、「私が思うには・・・思うには・・・には・・・」(強いて訳すならですが)と、枕詞を先に口に出して、それを言いながら、実際にその後言うことを考えているようなのです。「考えがまとまってから話せばいいのに。というより、まだ何も考えてないくせになぜ話し始めるのだ!」と思っていたのですが、なるほど、彼らは極小さな頃から、アニメが象徴するように、沈黙が許されない環境で育ってきたのでしょう。言わば、意味があろうとなかろうと、とにかく口だけでも何かを喋るための英才教育を受けてきたわけです。こうして、議論・文句・屁理屈が大好きなフランス人ができあがるわけですね。思えば遠くに来たものだ。

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